生成AIの社内ルールの作り方 — 入れておく項目のサンプルと注意点
生成AIの社内ルール(利用ガイドライン)は、「何を入れてはいけないか」と「出てきたものをどう扱うか」を決めておくための文書です。ChatGPT・Copilot・Gemini などを社員が業務で使い始めると、ルールが無いままでは、判断が人によってばらばらになります。
この記事では、社内ルールの作り方の手順と、自社で書き換えて使える項目のサンプルを紹介します。根拠にしている公的な資料は、2026年10月20日時点で各発行元が公開しているものです。
生成AIの社内ルールで決めておくこと
生成AIを業務で使うときに気をつけたい場面は、大きく2つです。
- 入力するとき — 顧客の個人情報や取引先の秘密情報を、そのまま入れてしまう。
- 出力を使うとき — 間違った内容をそのまま社外に出す。既存の作品に似たものを使ってしまう。
総務省・経済産業省の「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」は、生成AIを業務で使う会社を「AI利用者」と呼び、次のような点に注意するよう求めています(同ガイドライン概要)。
- AIの提供者が定めた利用上の注意を守り、想定された範囲で使う
- 出力の精度とリスクを理解したうえで使う
- 個人情報や機密情報を不適切に入力しない
- 提供者のサービス規約やセキュリティ上の注意を守る
- 出力を事業判断に使ったときは、関係者に合理的な範囲で情報を伝える
- 出力を特定の個人や集団の評価の参考にする場合は、人が判断して説明できるようにする
社内ルールは、これらを自社の業務に置き換えて、社員が迷わず判断できる形にしたものと考えると作りやすくなります。
社内ルールの作り方で参考になる公的資料
| 資料 | 発行元 | 版・日付 |
|---|---|---|
| 生成AIの利用ガイドライン(ひな形) | 日本ディープラーニング協会(JDLA) | 第1版 2023年5月、第1.1版 2023年10月。画像編 第1版 2024年2月 |
| AI事業者ガイドライン | 総務省・経済産業省 | 第1.0版 2024年4月。最新は第1.2版 2026年3月31日 |
| 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等 | 個人情報保護委員会 | 2023年6月2日 |
| AIと著作権に関する考え方について | 文化審議会 著作権分科会 法制度小委員会(文化庁) | 2024年3月15日 |
| AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス | 文化庁著作権課 | 2024年7月31日 |
(版・日付は2026年10月20日に各発行元のページで確認)
JDLA のひな形は、社内ルールのたたき台として使えるように公開されています。公開時の報道では、入力するデータの懸念、個人情報や秘密情報を入れるリスク、他人の著作物の入力、出力の権利の扱いといった点が取り上げられていました。ただ、確認日時点の最新版は2023年10月の第1.1版で、公開から約3年たっています。2026年3月に更新された AI事業者ガイドライン第1.2版などで補うのが現実的です。
なお、AI事業者ガイドラインは事業者の自主的な取り組みを支える指針で、法的な拘束力はありません。「従わないと違法」という文書ではありませんが、社内ルールの考え方の土台として使えます。
生成AIの社内ルールの作り方 — 5つの手順
1. 使う目的と、使ってよい業務を決める
「文章の下書き」「会議メモの要約」「アイデア出し」など、まず使いたい業務を書き出します。使ってよい業務がはっきりすると、ルールが抽象的になりません。人の評価(採用・人事評価など)に使う場合は、別に扱いを決めておきます。
2. 使ってよいサービスとアカウントを決める
会社として使ってよいサービスを一覧にします。そのとき、各サービスの利用規約とプライバシーポリシーを読み、入力した内容が機械学習に使われるかどうか、使われない設定にできるかを確かめます。個人情報保護委員会も、個人データを入力する場合は、提供事業者が機械学習に使わないことなどを十分に確認するよう求めています。
3. 入力してはいけない情報を決める
顧客の個人情報、取引先から預かった秘密情報、未公開の社内情報など、入れてはいけない情報を具体的に挙げます。「機密情報は入れない」だけでは、何が機密か人によって判断が分かれます。自社でよく扱う書類の名前で書くと伝わります。
4. 出力の確かめ方を決める
生成AIの出力には、事実と違う内容が混ざることがあります。社外に出す前に誰が何を確かめるか(数字・固有名詞・日付・引用元など)を決めます。
5. 周知・教育と見直しの時期を決める
AI事業者ガイドラインは、AIに関わる人のAIリテラシーを確保する措置を求めています。ルールを配るだけでなく、使い始める前に説明の場を設けます。また、同ガイドライン自体が今後も更新される文書とされているため、社内ルールも見直す時期を決めておきます。
生成AIの社内ルールのサンプル(項目の例)
Texera が、中小企業で使いやすいように作った項目の例です。見出しと1行の例文だけにしています。自社の業務・体制に合わせて書き換えてください。就業規則や情報管理規程との関係は、必要に応じて社会保険労務士・弁護士にご確認ください。
| 項目 | 例文 |
|---|---|
| 目的 | このルールは、生成AIを業務で安全に使い、仕事の質と速さを上げるために定めます。 |
| 対象者 | 役員・社員・パート・派遣社員など、当社の業務に携わるすべての人に適用します。 |
| 使ってよいサービス | 業務で使えるのは、会社が承認して一覧に載せたサービスとアカウントだけです。個人のアカウントを業務に使うことは禁止します。 |
| 使ってよい業務 | 文章の下書き、要約、翻訳、アイデア出し、表計算の式づくりに使えます。それ以外の業務は担当者に相談してください。 |
| 人の評価に使う場合 | 採用・人事評価など人を評価する場面では、出力を参考にとどめ、判断と説明は必ず人が行います。 |
| 入力してはいけない情報 | 顧客・取引先の個人情報、取引先から預かった資料、未公開の財務・人事情報、パスワードやID は入力しません。 |
| 個人情報を扱う場合 | 業務上どうしても必要なときは、利用目的の範囲内か、入力内容が学習に使われない設定かを、担当者が確かめてから使います。 |
| 出力の確認 | 出力は、事実・数字・固有名詞・日付を人が確かめてから使います。確かめていないものを社外に出しません。 |
| 著作物の扱い | 他人の文章や画像を、似たものを作る目的で入力しません。社外に出す生成物は、既存の作品に似ていないか確かめます。 |
| 社外への伝え方 | 生成AIで作った資料を取引先に渡すときは、必要に応じて、生成AIを使ったことを伝えます。 |
| 記録 | 社外に出す文書に使ったときは、使ったサービス名と日付を残します。 |
| 困ったとき・事故のとき | 入れてはいけない情報を入れてしまったときや、出力に問題があったときは、すぐに担当者へ報告します。早く報告した人を責めることはしません。 |
| 教育 | 新しく使い始める人は、事前に社内の説明を受けます。 |
| 担当者 | このルールの担当者は〇〇とし、承認済みサービスの一覧を管理します。 |
| 見直し | このルールは年に1回、または使うサービスや法令・指針が変わったときに見直します。 |
| 違反したとき | このルールに違反した場合は、就業規則に沿って対応します。 |
最初から全部をそろえる必要はありません。小さな会社なら、「使ってよいサービス」「入力してはいけない情報」「出力の確認」「困ったとき」の4つから始めても構いません。入力と出力の両方の要点を、まず押さえられます。
社内ルールを作るときの注意点
個人情報 — 「入れたら必ず違法」ではないが、確認が要る
個人情報保護委員会の注意喚起(2023年6月2日)は、事業者に次の2点を求めています。
- 個人情報を含むプロンプトを入力するときは、特定した利用目的の達成に必要な範囲内かを十分に確認すること。
- 本人の同意なく個人データを含むプロンプトを入力し、その個人データが応答の出力以外の目的で扱われる場合、個人情報保護法に違反する可能性があること。入力する場合は、提供事業者が個人データを機械学習に使わないことなどを十分に確認すること。
つまり、入力の可否はサービスの設定と利用目的で変わります。社内ルールでは「原則として入力しない。必要なときは担当者が確かめる」と決めておくのが運用しやすい形です。同委員会は、今後も追加の注意喚起を行う可能性があるとしています。
著作権 — 生成物の扱いは個別に判断される
文化庁の「AIと著作権に関する考え方について」(2024年3月15日)は、次のように整理しています。
- 生成物が既存の著作物と似ていて(類似性)、その著作物をもとにしている(依拠性)と認められれば、著作権侵害になり得る。
- 既存の著作物に似たものを出す目的で、その著作物を生成AIに入力する行為には、情報解析のための利用を認める規定(著作権法第30条の4)は適用されないと考えられる。
- 生成AIへの指示が、表現に至らないアイデアにとどまる場合、その生成物に著作物性は認められないと考えられる。ただし個別の事例ごとに判断される。
この文書は当時の考え方を示したもので、法的な拘束力はなく、判例や技術の進み方を見て見直す予定とされています。社内ルールでは結論を断定せず、「似たものを作る目的で他人の作品を入れない」「社外に出す前に似ていないか確かめる」という行動の決まりにしておくと、考え方が変わっても使い続けられます。
ルールは作って終わりにしない
使うサービスの規約や設定は変わります。AI事業者ガイドラインも2024年4月の第1.0版から、2026年3月の第1.2版まで更新されています。社内ルールにも見直しの時期と担当者を書いておき、変わったときに社員へ伝えられるようにしておきます。
次にすること
- 社員がいま、どのサービスを、どの業務に使っているかを聞き取る。
- 使ってよいサービスを決め、規約と学習の設定を確かめる。
- 上のサンプルを自社向けに書き換え、まず4項目(サービス・入力禁止・出力の確認・困ったとき)から運用を始める。
- 社員向けの説明の場を設け、見直しの時期を決める。
Texera のAI導入支援について
Texera のAI導入支援では、AIを使う環境とあわせて、社外に出してよい情報の線引きを含む社内ルールを整えます。ご相談はお問い合わせからどうぞ。研修の中で、外に出してよい情報の線引きを一緒に決めることもできます。
参考
- 日本ディープラーニング協会 資料室(生成AIの利用ガイドライン) https://www.jdla.org/document/
- 日本ディープラーニング協会 生成AIの利用ガイドライン第1.1版のお知らせ(2023年10月6日) https://www.jdla.org/news/202310060002/
- 日本ディープラーニング協会 生成AIの利用ガイドライン画像編のお知らせ(2024年2月13日) https://www.jdla.org/news/20240213001/
- 総務省 AI事業者ガイドラインの掲載ページ https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/ai_network/02ryutsu20_04000019.html
- 総務省・経済産業省 AI事業者ガイドライン(第1.2版)概要 https://www.soumu.go.jp/main_content/001064299.pdf
- 総務省・経済産業省 AI事業者ガイドライン(第1.2版)本編(経済産業省掲載) https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/ai_shakai_jisso/pdf/20260331_1.pdf
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(2023年6月2日) https://www.ppc.go.jp/files/pdf/230602_alert_generative_AI_service.pdf
- 文化審議会 著作権分科会 法制度小委員会「AIと著作権に関する考え方について」(2024年3月15日) https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/94037901_01.pdf
- 文化庁 AIと著作権の解説ページ(「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」の案内を含む) https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/aiandcopyright.html
(いずれも2026年10月20日に確認)